冷え、むくみ、月経、更年期。女性の不調に漢方ができること
当帰芍薬散・桂枝茯苓丸・加味逍遙散から考える、受診と治療選択の話

皆さんおはようございます。にしむらです。
唐突ですが、今日は漢方の話をします。というのも僕は総合診療外来でよく漢方を処方しています。その中でも結構需要が高い、女性特有の不調に使える漢方について今回お話しします。
女性の不調は、単一では説明しにくいことがあります。
月経前になると気分が沈む。
体が冷える。
むくむ。
眠れない。
疲れが抜けない。
更年期かもしれないけれど、どこに相談していいかわからない。
病院で検査をしても、内科的な大きな異常はないと言われる。
でも、本人としては明らかにつらい。
こういう症状は、医療の中でこぼれ落ちやすい領域だと思っています。
痛みが強ければ痛み止め。 眠れなければ睡眠薬。 気分の落ち込みが強ければ抗不安薬や抗うつ薬。 ホルモンの変化が関係していれば、ホルモン治療。
もちろん、こうした治療が必要な場面はあります。 西洋薬でしっかり治療した方がいい症状もあります。
一方で、女性特有の不調は、ひとつの症状だけで説明できないことが少なくありません。
冷えもある。 むくみもある。 月経の前後で調子が崩れる。 肩こりや頭痛もある。 眠りが浅い。 気分の波もある。
こういう複数の症状が重なっているとき、ひとつひとつを別々の薬で抑えるよりも、漢方の方が全体として合うことがあります。
漢方は「西洋薬の代わりに飲む、効き目が弱い薬」ではありません

漢方というと、なんとなく自然で、なんとなく体にやさしくて、西洋薬が合わない人が仕方なく飲むもの、というイメージを持っている方もいるかもしれません。
でも、医療現場で使われている漢方薬は、単なる民間療法ではありません。 女性特有の症状に対して、臨床研究が行われているものもあります。 産婦人科や更年期医療の領域で、実際に治療選択肢として使われている処方もあります。
もちろん、すべての症状に効くわけではありません。 研究の質や量にも差があります。 西洋薬のように、ひとつの成分がひとつの標的に作用する、という説明だけでは整理しにくい部分もあります。
それでも、漢方には漢方なりのエビデンスがあります。 少なくとも、効き目が弱い代替薬として片づけていいものではありません。
女性の不調では、漢方が合う場面があります

特に女性の不調では、漢方が使いやすい場面があります。
理由のひとつとして、重なりやすい症状すべてに効果的、というものがあります。
月経、更年期、冷え、むくみ、睡眠、ストレス、自律神経、血流。
これらは、医学的な原因がきれいに1:1で対応するものではありません。
月経前に気分が不安定になり、体がむくみ、眠りが浅くなり、頭痛も出る。
更年期に、のぼせ、発汗、不眠、イライラ、肩こりが重なる。
冷えが強く、疲れやすく、月経のたびに体調が落ちる。
こういうとき、単一の症状だけで薬を選ぶのではなく、その人に出ている症状のまとまりを見る考え方が役に立つことがあります。
漢方では、この症状のまとまりを見ながら処方を考えます。
これは、専門的には証という言葉で表現されます。
重要なのは、漢方は病名だけで選ぶ薬ではない、ということです。
同じ月経痛でも、冷えが強い人と、のぼせが強い人では、合う処方が変わることがあります。
同じ更年期症状でも、気分の波が目立つ人と、血流の悪さが目立つ人では、考え方が変わります。
ここで、女性の不調でよく使われる漢方を3つ紹介します。

当帰芍薬散:冷え、むくみ、疲れやすさ、月経まわりの不調

ひとつ目は、当帰芍薬散です。
当帰芍薬散は、冷え、むくみ、疲れやすさ、月経まわりの不調などで使われることがあります。
体力があまり強くない。 冷えやすい。 むくみやすい。 立ちくらみがある。 月経に伴って体調が崩れやすい。
こういう人には、上位の選択肢に上がります。
漢方の言葉では、血や水のバランスの問題と表現されることがあります。
僕らが西洋的に考える血や水とは厳密には違うのですが、わかりやすいので患者さんにはそのまま「血流や水分のめぐりが悪く、冷えやむくみを伴うタイプの不調に使われることがある」とお伝えしています。
桂枝茯苓丸:のぼせ、肩こり、月経痛、血の巡りに関わる不調

二つ目は、桂枝茯苓丸です。
桂枝茯苓丸は、月経痛、肩こり、のぼせ、血の巡りに関わる不調などで使われます。
冷えだけではなく、のぼせもある。 肩こりが強い。 月経痛がつらい。 下腹部の張りや違和感がある。 更年期の症状として、ほてりやのぼせが気になる。
こういう場面で考える処方です。
漢方では、瘀血(おけつ)という言葉で説明されることがあります。
血の巡りが滞っているような状態、という意味です。
加味逍遙散:イライラ、不眠、気分の波、更年期症状

三つ目は、加味逍遙散です。
加味逍遙散は、イライラ、不眠、気分の波、更年期症状、月経前の不調などで使われることがあります。
理由もなくイライラする。 眠りが浅い。 気分が揺れやすい。 肩こりや頭痛もある。 更年期かもしれないけれど、症状がいろいろあって説明しにくい。
こういう方には第一に処方しています。ちなみにおしゃべりな人には真っ先にこれを思い付きます。
悪口じゃないですよ?気分の波や会話のテンポというのも証の一つです。
月経や更年期に伴う不調は、心の問題として現れることもよくあります。
それはそういうホルモンバランスになってしまうからであり、表現系としてでているイライラ感、会話のテンポを正確に解釈するのも医師の仕事です。
ただし、自己判断で漢方から始めないでほしい

ここまで読んで、では自分で漢方を買って飲んでみようと思った方。ぜひ試してください。
ただ、女性特有の症状の中には、先に診察や検査が必要なものがあります。
不正出血がある。
月経痛がどんどん強くなっている。
急に強い腹痛が出た。
出血量が多い。
貧血を指摘された。
妊娠の可能性がある。
体重減少、動悸、強いだるさがある。
こういう場合は、女性特有な症状だけでは、片付く問題では無い可能性もあります。まず医療機関に相談してください。
具体的には子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣の病気、貧血、甲状腺の病気など、治療が必要な病気が隠れていることも。
また、妊娠中や授乳中の場合も、薬の選び方は慎重に考える必要があります。実際に漢方薬でも妊娠中の方には処方しちゃいけないものもあります。
漢方は、決して民間療法ではないのです。
まとめ:我慢するのではなく、選択肢を知る

女性の不調は、我慢されやすい。 年齢のせい。 体質のせい。 忙しいから仕方ない。 そうやって片づけられてしまうことがあります。
でも、つらいものはつらいと思います。
僕は男性ですが、こういった女性特有な症状に困っている方々を総合診療外来で何人も診てきました。
そして、そのつらさに対して、できることがある場合があります。
西洋薬が必要なこともある。 ホルモン治療が合うこともある。 生活を整えることが大事なこともある。 そして、漢方が合うこともある。
漢方は、決して西洋薬の代替薬ではありません。
冷え、むくみ、月経、更年期。
そういった症状で困っているなら、漢方は良い選択肢になります。
ただ、いきなり漢方を始める前に、明らかにこれはいつもよりおかしいと感じた場合、まず一度、医療機関で相談してみてください。
必要があれば検査を受けたうえで、専門の医師のアドバイスを聞くと、漢方より最適な選択肢が見つかる場合もあります。
皆さんがこれをきっかけに、辛い症状に漢方を使うと言う選択肢について、頭の片隅に留めておいていただけると幸いです。



にしむら先生、漢方のエビデンスと実践的な使い分けについて、非常にわかりやすい解説をありがとうございます!
日頃、相手の言葉や背景をジャッジせずにありのまま受け止める「聴く姿勢」を大切にしていますが、「単一の症状ではなく、症状のまとまり(証)を見る」「おしゃべりなことや会話のテンポも証の一つとして解釈する」という先生のスタンスは、まさに患者さんの全人的なSOSをまるごと受け止める、素晴らしい診療の形だと感動しました。
検査の数値だけではこぼれ落ちてしまう「女性の複雑な不調」に深く寄り添ってくださる、本当に心強く、優しい記事ですね。
アメリカに来てから、さっぱり漢方薬に触れなくなりました。日本にいた頃は、PMSとかに使用していたのに。もうすぐ更年期になります。こういった症状には、西洋の薬より東洋の薬の方が効く気がするんです。