AIに自分の文脈を渡して働いてもらう、いわゆる「AI分身」づくりを1年くらい試行錯誤してきた。結論から言うと、ボトルネックは分身の賢さじゃなくて「文脈の鮮度を保つ運用」だった。そしてスマホ版Coworkの定期タスクが、その運用の一番面倒な部分をようやく解決してくれたので、僕が実際に回している定期タスクを紹介したい。
これまでの失敗の歴史
第1期:文脈をツールに置きっぱなし
最初はCircleback(会議の自動文字起こし・議事録ツール)とGmailに文脈が全部溜まっていた。会議の決定事項も、人間関係のニュアンスも、進行中の案件も、探せば全部ある。でも「探せばある」と「AIが使える」の間には深い谷があって、AIに何か頼むたびに手動で該当の議事録やメールを引っ張ってきて貼り付ける必要があった。文脈の呼び出しも書き込みも全部手動。これが本当に面倒だった。
第2期:Notionでなんちゃって分身
次にやったのが、Notionに文脈をデータベース化して保存する方法。僕の場合は6つのDBに分けた。
蒸留ノートDB:会議や日々の思考から抽出した「学び・決定・気づき」を時系列で貯める
タスクDB:期限・ステータス付きのアクションアイテム
プロジェクトDB:進行中案件の状態
人物DB:キーパーソンとの関係性・文脈
自己参照DB:自分の判断基準・文体・ブランドの言語化(AIへの指示書もここ)
業務ナレッジDB:職場固有の運用知識
AIにはこのDB群を参照させてから仕事をさせる。これで「なんちゃってAI分身」としてはかなり機能した。メールの下書きも資料作成も、いちいち文脈を説明しなくてよくなった。
ただし致命的な問題があった。手動で更新・整理し続けないと、あっという間にコンテキストが腐る。 期限切れのタスクが放置され、蒸留ノートは書きかけのまま、人物DBは半年前の関係性のまま。腐った文脈を参照した分身は、古い前提で堂々と間違える。むしろ害になる。
第3期:定期タスクの認証地獄
「なら更新自体をAIに定期実行させればいい」と気づいて、PCつけっぱなし運用やClaude CodeのクラウドRoutine機能を試した。方向性は正しかったけど、運用が続かなかった。一番の敵は認証切れ。Googleなどの認証情報が気を抜くとすぐ切れて、タスクは静かに失敗し続ける。気づくのは「あれ、今週の蒸留ノートがない」と思った数日後。異変に気づけない自動化は、自動化じゃない。
スマホ版Coworkで変わったこと
スマホ版Coworkの定期タスクは、この運用問題をほぼ全部潰してくれた。
認証が切れたら接続許可が通知で飛んでくる。 タップして再認証すれば復旧。静かな失敗がなくなった
デバイスの電源がオフでも実行される。 PCつけっぱなし運用からの解放
実行結果がスマホに届くので異変に気づきやすい。 通勤中に眺めるだけで監視が成立する
「壊れにくい」んじゃなくて「壊れたことにすぐ気づける」のが体験として決定的に良い。
僕が回している定期タスク
① 毎日:過去24時間の文脈蒸留と整理
その日に発生した文脈を、24時間分まとめて蒸留ノートDBに書き出すタスク。
Circlebackの会議録、Gmailの往来、その日のAI作業ログを横断的に確認
決定事項・学び・気づきを構造化して、日次の蒸留レコードとしてDBに書き戻す(メール往来は「その日の要点」として1件に圧縮)
新しく登場したキーパーソンは人物DBに登録、拾ったアクションはタスクDBに追加
これが分身の「餌やり」に相当する。会議に出る、メールを打つ、といった日常の活動が、翌日には検索可能な構造化された文脈になっている。手動でやっていた頃は3日で破綻したやつが、毎日勝手に回る。
② 週次:文脈の棚卸しと週次蒸留
日次で貯めた文脈を、週1回まとめて掃除・統合する。コンテキスト腐敗対策の本丸。
ステップ1:タスク棚卸し
期限切れのタスク、期限なしで30日以上停滞しているタスクを抽出
「期限超過/期限間近(7日以内)/停滞(30日超)」に分類して報告
プロジェクトDBを見て「期限が近いのに次の行動が紐づいていない案件」を指摘
ステップ2:週次蒸留
蒸留ノートDBの直近7日分を確認
日次レコードが2件以上あれば、テーマ横断の週次サマリーを1件生成して書き戻す
素材が少ない週は「今週は蒸留素材が少ない」と報告(空白の可視化も情報)
週末の通知でこれが届くと、「来週やること」と「腐りかけの文脈」が整理された状態で週が締まる。
③ 12時間おき:メール返信下書きの作成
受信トレイを12時間ごとにチェックして、返信が必要なメールの下書きを作らせている。
未対応の要返信メールを抽出
自己参照DB(自分の文体・判断基準)と人物DB(相手との関係性・過去の経緯)を参照
相手ごとのトーンで返信文を書いて、Gmailの下書きに保存
送信は必ず自分でやる。分身が作るのはあくまで下書きまで。それでも「返信の初稿を書く」という一番腰が重い工程が消えるので、メール対応の心理的コストが激減した。日次蒸留(①)で人物DBが更新され続けているから、下書きの精度が落ちない——タスク同士が文脈を介して連携しているのがこの仕組みの肝。
設計上こだわっているルール
定期タスクを安全に回すために、AIの自律レベルを操作の種類ごとに分けている。
完全自律OK:蒸留ノートDBへの書き込み、タスクの自動抽出(追記型で壊れにくい操作)
承認後に実行:週次・月次の統合ノート、自己参照DBへの新規エントリ提案
下書きまで:自己参照DBの既存エントリの更新(自己認識の変更は本人が決める)
他にもルールがいくつかある。
棚卸しは非破壊。 AIは「これ完了してませんか?」と提示するだけで、勝手にステータスを変えない
書き込みには必ず出典と日付を残す。 後から「なぜ分身がこう考えたか」を追跡できる
重複防止を仕込む。 同じ週のサマリーが既にあれば作らず報告のみ
要するに「情報を貯める操作は自律、自分の定義を書き換える操作は人間の承認」という線引き。分身に任せるほど、この線引きの設計が効いてくる。
まとめ
AI分身は「作る」ものじゃなくて「飼う」ものだった。餌やり(文脈の更新)と掃除(棚卸し)を止めた瞬間に腐る。その世話を定期タスクに任せられるようになって、しかもスマホ側で認証切れの通知と実行結果まで見られるようになって、ようやく世話が続く仕組みになった。
文脈をDB化している人、Notionで似たようなことをやっている人は、まず「週1の棚卸し+週次サマリー生成」の1本から始めるのがおすすめ。コンテキストの腐敗が止まるだけで、分身の精度は体感でかなり変わる。






AI分身を「作る」こと自体よりも、日々の文脈をアップデートし続けて「腐らせないように飼う」ことの方が遥かに難しい、という結論にとても納得しました。せっかく便利な仕組みを作っても、手動での整理が追いつかずに古い前提でAIが堂々と間違え始めるという失敗談は、実際に運用を試みた人ならではのリアルな実感ですね。日々の餌やりと掃除を仕組み化する重要性がよく分かります。