「医療×AIが変える世界」に飽きた方へ、別の話を持ってきました
医療現場でAIを動かす、30万人に届けた医師の翻訳ノート
Welcome to Translation Notes — a Substack by a Japanese rural generalist physician, building, translating, and inventing new uses for AI in everyday clinical and hospital management work.
本記事は、医療現場とAIに可能性を感じているすべての方向けです。経営層・現場医師・AIに関わる方、どの立場で読んでもらってもかまいません。
「医療AIで全てが変わる」 「AI診断が医師を超える日」 「〇〇病院、AI導入で業務効率200%向上」
この手の話、もう何度も読みましたよね。僕も読みました。正直、自分の発信でも近いトーンに振れた瞬間が、たぶんあります。
ただ、現場で働いていると、あれ?と思うことがあります。これだけ「変わる」「変わる」と言われ続けて何年も経つのに、自分の目の前の業務は、ほとんど何も動いていない。
僕がSubstackで書きたいのは、その間にある翻訳の話です。「医療×AIが変える世界」を書きたいのではなく、「医療現場でAIが動く」を書きたい。世界を変える話はもう十分に出回っているので、僕は手元の半径数メートルの話をします。
はじめまして、西村涼です
総合診療医として、北海道の旭川で外来・病棟・訪問診療・救急領域を横断的に診ています。所属は道北勤医協一条通病院。立場としては法人の理事兼訪問診療部門の責任者をしています。2026年4月にKAMUIという総合診療の専門研修プログラムを立ち上げて、そのディレクターも兼ねています。プレイングマネージャーという言葉が一番近い働き方です。
そしてもう一つ、医療系会社Mediative株式会社のCCOをしています。中小病院・クリニックをクリエイティブで伴走するのが、僕のもう片方の仕事です。
肩書きを並べると詰めすぎに見えるのは自覚しています。ただ、これを「全部やる」と決めて飛びついた感覚はなくて、現場で「ないから自分でやるしかない」と続けているうちに、結果としてこうなりました。
「ないからつくる」が出発点です
僕のパーソナルブランドは「ないからつくる総合診療医」です。
旭川医科大学を2020年に卒業して、藤田医科大学の総合診療プログラムで3年ほど修行した後、2024年7月から旭川に戻ってきました。当直表の作成、在宅医療チームの連携、組織図、業務マニュアル、勉強会の広報文。地方の中小病院ではこういう仕事の多くが「気合と根性で誰かが手作業で回す」状態になっていることがあります。回せていないものも多い。
そこで、ないなら作るかと、GASでスクリプトを書き、LINE Botでマーケティングを楽にして、ClaudeでAI秘書を作り、議事録作成パイプラインを作りました。完璧主義ではなく、動くものを高速で回して改善していくスタイルです。
「理想の世界」ではなく「動き続ける現場」の話を書きます
冒頭の話に戻ります。「医療×AIが変える世界」で話されているスケールでは、まだほとんど世界は変わっていません。少なくとも僕が立っている、人口33万人の地方都市の200床弱の中小病院から見える景色では、革命は起きていません。
一方で、自分の手元の半径数メートルでは、AIによって明確に動いた現場があります。
直近の『総合診療』2026年4月号に「私のAI活用法――プレイングマネージャーの視点で管理業務を効率化する」というコラムを寄稿させてもらいました。Claude Code、Cursor、GitHubの3つを組み合わせて、病院のマニュアルや組織図、研修プログラム骨子のような書類を、外来の合間や訪問診療の移動時間からスマートフォンで指示するだけで作成できるようにした、という話です。
書類作成の効率化と聞くと地味ですよね。でも、医師がプレイングマネージャー的に動かなければ回らない地方中小病院では、隙間時間で重い書類が動くだけで景色が変わります。臨床業務をこなしながら、当院の機能を理解した数十ページの書類が、携帯から指示するだけで生成されてくる。これだけで、自分の手数がだいぶ増えます。
僕がSubstackで書きたいのは、こういう「世界の話ではなく、現場が一歩動いた話」の集積です。汎用的なAIの使い方はすでに山ほどネットに転がっています。それでも医療現場では「で、僕の業務にそれをどう使うの?」というところで止まりがちです。汎用の使い方と、目の前の業務制約のあいだには、まだ翻訳が必要です。その翻訳の現場を、毎週書き留めます。
30万人に届いた話と、それでも届いていない話
ここまでの話と少し矛盾するかもしれませんが、僕の話は実はそこそこ届いているんです。
民間医局コネクトプラスという、医師向けのセミナーでChatGPT活用術について3部作で講演させていただきました(病棟業務編・勉強編・自動化編)。講演アーカイブスライドは合計30万PV、ここから書籍化のお話までいただいて、現在原稿を推敲中です。先日はメディカルトリビューンで「早く仕事を終わらせるためのAI活用」というテーマで収録もしました。
…で、これだけ届いてもなお、僕の見える範囲で言うと、中小病院・診療所のAI導入はほとんど進んでいません。
これは僕の発信の限界というより、構造の話だと思っています。経営層が読む媒体、現場医師が読む媒体、医療AIスタートアップが読む媒体。どれもが分断されているように見えていて、「変える世界」の話と「動かす現場」の話が別々の言語で語られている。だから一方を読んでも、もう一方にはなかなか届きません。
翻訳ノートで僕がやろうとしているのは、その分断を一つの場所で書くことです。経営層向けの論点も、現場のワークフロー設計も、業界全体のエコシステム論も、同じ書き手が、同じ視点で書く。これがどれくらい効くか、正直まだ自分でも分かっていません。ただ、誰かが試さない限り何も始まらないので、3年くらいやってみるつもりです。
4枚の語彙のあいだに立つ
なぜ翻訳という言葉にこだわるのか、自分でも考えてみたことがあります。
普段の僕は、医療・AI・経営・教育という4つの全く違う語彙体系のあいだを行き来しています。総合診療医として臨床推論で患者を診る。なんちゃってエンジニアとしてClaudeを叩いてシステムを設計する。常任理事として診療報酬と人件費を読んで予算編成する。プログラムディレクターとして専攻医のキャリア相談に乗る。
普通なら別々の人がやる仕事です。同時にやっていると、誰も気付きにくい翻訳の必要性に毎日ぶつかります。臨床医が経営の言葉を理解するための翻訳、経営層がAIの実装可能性を判断するための翻訳、AI開発者が医療現場の制約を設計に組み込むための翻訳。これらの現場を、誰かが書き留めておく必要がある気がしています。
そのための場所として、Substackで「翻訳ノート」を始めることにしました。
誰に向けて書くか
主に3つの層を想定しています。
ひとつめは、自分の組織でAIをどう動かせばいいか考えている院長・事務長・経営層の方。「AI活用が大事と聞くが、何から始めるべきか整理がつかない」という状態に対して、現場の手触り付きで論点を整理することを目指します。これは僕がMediativeでやっているB2B伴走の仕事と地続きです。
ふたつめは、現場でAIを使い倒したい医師・看護師・コメディカル・事務の方。研修医や若手の総合診療医の方も歓迎します。臨床業務と管理業務の両方が乗っかった状態で、どう時間を作るか、どう質を上げるか、というワークフロー寄りの話を書きます。
みっつめは、医療AIスタートアップや医療コンサルなど、医療×AIのエコシステムを作っている方。日本の中小病院がどういう構造でAI導入に詰まるのか、現場側からの視点を共有していきます。協業の声がけも歓迎です。
note(note.com/kamui_soushin)でも近い文脈で発信していますが、Substackは英語要旨を併記して、海外の読者にも届く形を試そうと思っています。
翻訳ノートを読んで、何が変わるか
最初に書いた通り、世界が変わる話はしません。なので、毎号読んだ後に劇的な何かが起きるとは保証できません。それでも、3か月ほど読んでもらえると以下のあたりは変わるはずです。
経営層の方なら、自院でAI導入を進めるときの判断基準が、漠然とした不安から具体的な論点リストに変わります。「現場が乗り気じゃないからやめる」みたいな全か無かの判断から、「この部門のこの業務から、こういう体制で始めれば3か月で結果が見える」というレベルまで、判断の解像度が降りてくる。これはMediativeでクリニック・病院の伴走をしている過程で、何度も繰り返している型です。
現場の医師・スタッフの方なら、AIを使う側として一段上の語彙が手に入ります。プロンプトの書き方というレベルではなく、「自分の仕事のどの部分がAIで自動化できて、どの部分は自分の判断が必要か」を切り分ける視点です。これは技術的というより、自分の業務を分解する力の問題です。
医療×AIに関わるパートナー候補の方には、日本の地方中小病院という特殊な現場で何が起きているかの、現場発の一次情報をお届けします。海外のヘルステックトレンドが日本の文脈にどう翻訳されるか、僕の側の限界も含めて書きます。
書く前に正直に言っておくと
僕はAI研究の専門家ではありません。総合診療医で、現場でAIを動かして、結果が良ければ続け、悪ければやめる、という素朴なやり方をしている人間です。
なので、ここで書く話には「最新の論文ではこう」とか「今のAIはここまでできる!」いう根拠付けや驚き屋的な投稿より、「自分の現場でこう動かしたらこうなった」という事例の話のほうが多くなります。失敗談も書きます。守秘義務で抽象化が必要なケースもあります。
そういう書き方が好きな方には、たぶんピンと来る存在になれると思います。網羅的な解説や、AIで全てが解決するという華やかな未来像が欲しい方には、ややこしすぎるかもしれません。
それでもよければ、購読してもらえると嬉しいです
購読登録してもらえると、新しい号が出たときにメールで届きます。日本語で書きますが、各号の冒頭に英語の要旨を付けます。週1本前後のペースを目標にしています。
もし私に興味がある場合は、X(@naitsuku_doc)でも情報発信を行っています。是非近しい思いを持っている方、AIでの未来について話したい方、コラボレーションしたい方、繋がっていきましょう。
Hi, I’m Ryo Nishimura, a board-certified general internist working as a playing manager in a small community hospital in Asahikawa, Hokkaido. I direct a generalist training program (KAMUI), serve as a board member of the medical corporation, and act as CCO of Mediative — a Japanese consultancy specializing in AI implementation for small to mid-sized hospitals and clinics. Translation Notes is where I write — in Japanese with English summaries — about translating AI from the world of tech demos into the daily reality of clinical and hospital management work in rural Japan. If you care about how AI actually lands in healthcare beyond the hype, I think you’ll find something useful here.
X: @naitsuku_doc note: note.com/kamui_soushin Mediative株式会社 CCO




とても共感しました。医療AIの華やかな未来像と、現場の「半径数メートル」の動かなさの間にあるギャップ。それを埋めるのは、まさに現場と経営を知る人間による地道な「翻訳」作業に他ならないと痛感しています。
異なる文脈を繋ぎ、現場の解像度を上げていく実践的な発信をとても楽しみにしています。